BPSが高ければ倒産しにくい?BPSだけでは判断できない
BPSがプラスで高いことは、一定の純資産を保有していることを意味しますが、BPSだけで企業の倒産可能性を判定することはできません。
企業が支払いを続けるためには、帳簿上の純資産だけではなく実際の現金が必要だからです。
独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営するJ-Net21でも、帳簿上は利益が出ていても支払いに必要な現金が不足し、倒産する「黒字倒産」があることを説明しています。
BPSが高くても資金不足になるケース
例えば純資産が豊富でも、その多くが土地、設備、在庫、売掛金などですぐ現金化できない資産で構成されている場合があります。
借入金の返済日が迫っているのに現金が不足すれば、BPSだけでは問題を解決できません。
そのため倒産リスクを見る場合は、BPSとともに次の指標・項目を確認します。
- 現金・預金残高
- 営業キャッシュフロー
- 自己資本比率
- 短期・長期の有利子負債
- 流動資産と流動負債
- 借入金の返済負担
- 継続企業の前提に関する注記
BPSがマイナスならどう見る?
普通株主に帰属する純資産額がマイナスの状態では、BPSもマイナスになることがあります。
これは財務上、非常に注意して確認すべき状態です。
ただし、「BPSがマイナスになった瞬間に必ず倒産する」という意味でもありません。資金調達、事業再建、資産売却、増資などによって財務状態が改善する場合があります。
反対にBPSがプラスでも資金繰りが破綻する可能性はあります。
したがって、倒産リスクの判断ではBPSの符号だけではなく、貸借対照表・損益計算書・キャッシュフロー計算書を組み合わせることが重要です。
「BPS=会社を解散したらもらえる金額」ではない
BPSは、しばしば「会社を解散した場合に1株当たりいくら残るかを見る指標」と説明されることがあります。
これはイメージをつかむうえでは分かりやすい説明ですが、実際に会社を清算したときBPSと同額を株主が受け取れることを保証するものではありません。
貸借対照表上の帳簿価額と実際の売却価格が一致するとは限らないためです。
例えば、
- 土地・建物の売却価格
- 設備の処分価格
- 在庫の換金価格
- 売掛金の回収可能額
- 清算に必要となる費用
などによって実際の残余財産は変化します。
そのため「株価800円、BPS1,000円だから200円分は確実に得」と考えることはできません。
PBR1倍割れは「割安株」とは限らない
BPSを使った株式分析で特に注意したいのが、PBR1倍割れです。
株価800円、BPS1,000円ならPBRは0.8倍なので、一見すると割安に見えます。
しかし、市場が次のような問題を織り込んでいる可能性もあります。
- 今後の赤字によってBPSが減る懸念
- ROEが低く資本効率が悪い
- 事業が長期的に縮小している
- 保有資産を十分に活用できていない
- 大規模な設備投資や損失が予想されている
- 株主資本コストに見合う利益を生み出していない
日本取引所グループも、資本収益性についてROEと株主資本コストの関係、市場評価についてPBRなどを組み合わせて考える方法を示しています。
つまり、低PBR株を見る際は「なぜ市場はBPSより安く評価しているのか」を考えることが重要です。
BPSが低くても優良企業は存在する
BPSが低いから企業の価値が低いとも限りません。
企業価値には貸借対照表上の資産だけではなく、技術、ブランド、顧客基盤、人材、データ、研究開発力、ビジネスモデルなども影響します。
少ない純資産で大きな利益を生み出せる企業では、BPSそのものが大きくなくても高いROEや高いPBRで評価される場合があります。
そのため、製造業、銀行、IT企業、サービス業など性質の異なる企業をBPSだけで横並び比較するのは適切ではありません。同業他社との比較が基本です。
BPSを比較するときは連結・単体、会計基準にも注意
上場企業では連結財務諸表を作成している会社が多いため、株式分析では通常、連結ベースの1株当たり純資産が重要になります。
また、日本基準、IFRS、米国会計基準など企業が採用する会計基準によって財務諸表の表示や資産・負債の認識方法に違いが生じる場合があります。
特に海外企業と日本企業をBPSだけで単純比較する場合は注意しましょう。
BPSデータを見る際の注意点|いつの純資産なのかを確認
株価は取引時間中に毎日変化しますが、BPSは企業が公表する決算データをもとに計算されます。
そのため、PBRを確認すると、
- 株価は現在の価格
- BPSは直近決算時点
というように基準時点が異なる場合があります。
決算後に巨額の増資、大規模な自社株買い、企業買収、特別損失などが発生している場合、掲載されているBPSと現在の財務状態に差が出る可能性があります。
最新決算と適時開示を合わせて確認しましょう。
BPSを株式投資で使うときのチェックリスト
| 確認項目 | 見るポイント |
|---|---|
| BPS | 1株当たり純資産はいくらか |
| BPS推移 | 3~5年程度で増加・減少のどちらか |
| PBR | 株価がBPSの何倍で評価されているか |
| 同業比較 | PBR・ROEを同業他社と比較したか |
| EPS | 1株当たり利益が成長しているか |
| ROE | 純資産を効率的に利益へ変えているか |
| 営業CF | 本業から現金を生み出しているか |
| 自己資本比率 | 負債とのバランスはどうか |
| 有利子負債 | 返済負担が急激に増えていないか |
| 株式数 | 増資・自社株買い・株式分割の影響がないか |
BPS分析でありがちな5つの間違い
- 「BPSが高いほど良い会社」と判断する
- 「PBR1倍未満なら必ず割安」と判断する
- 「BPSが高ければ倒産しない」と考える
- 業種の違う企業のBPS金額をそのまま比較する
- 株式分割・増資・自社株買いの影響を確認しない
BPSは便利な指標ですが、単独で株価の適正水準を決めるものではありません。
まとめ|BPSは「いくらあるか」より「どう増え、利益を生んでいるか」を見る
BPSとはBook-value Per Shareの略で、「1株当たり純資産」を意味します。企業会計基準上は、普通株式に係る期末純資産額を、期末の発行済普通株式数から自己株式数などを考慮した株式数で割って計算します。
BPSと特に関係が深いのがPBRです。
PBR=株価÷BPS
という関係があり、PBR1倍なら株価とBPSが同額です。ただしPBR1倍未満だから必ず割安、1倍を超えているから割高という意味ではありません。
また、BPSには「500円以上なら良い」「1,000円以上なら安全」といった全企業共通の目安はありません。株式分割によっても1株当たりの数値は変化するため、異なる企業のBPS絶対額を比較するだけでは投資判断につながりにくいからです。
実際の銘柄分析では、BPSの中長期推移、PBR、EPS、ROE、営業キャッシュフロー、自己資本比率、有利子負債などを組み合わせて確認しましょう。
BPSが増え続け、同時にEPSも成長し、十分なROEを維持できている企業なら、積み上げた株主資本を利益成長へ活用できている可能性があります。一方、BPSだけが増え、利益が伸びていなければ資本効率の低下も考えられます。
さらに、BPSが高くても倒産リスクがなくなるわけではありません。企業は現金が不足すれば支払いを続けられず、帳簿上黒字でも資金繰りによって経営が行き詰まるケースがあります。
BPSを「会社を評価する答え」として使うのではなく、企業の財務状態を理解するための一つの材料として活用することが重要です。
<参考サイト>日本取引所グループ(JPX) / 企業会計基準委員会(ASBJ) / 金融庁 / 独立行政法人中小企業基盤整備機構 J-Net21



