預託証券は、海外企業の株式を別の国の市場で取引しやすくするために発行される有価証券です。代表例である米国預託証券のADRは、米国以外の企業へ米ドルで投資できる一方、原株との交換比率、為替変動、預託銀行の管理費用、配当課税など、通常の米国企業株とは異なる注意点があります。本記事では、預託証券の仕組み、メリットとデメリット、取引時間、SBI証券・楽天証券での買い方、配当金、税金、確定申告、証券会社へ資産を預託する意味まで整理して解説します。

この記事の目次
- 預託証券とADRの基本的な仕組み
- ADR・GDR・JDRの違い
- 原株と預託証券の価格が連動する仕組み
- 預託証券のメリットとデメリット
- 預託証券の買い方と取引時間
- SBI証券・楽天証券で取引する際の注意点
- 配当金とADR管理費用
- 税金・二重課税・確定申告
- 有価証券の預託と預託金の意味
- 預託と寄託の違い
預託証券とは?海外株式の代わりに流通する有価証券
預託証券とは、企業が発行した株式などを預託機関へ預け、その株式を裏付けとして別の国で発行される有価証券です。英語ではDepositary Receiptといい、一般にDRと略されます。
企業の株式は通常、本国の証券市場や決済制度を通じて取引されます。しかし、外国の投資家が本国市場へ直接参加するには、現地口座の開設、通貨交換、株式の保管、配当金の受取りなどに手間がかかる場合があります。
そこで、預託銀行などが企業の原株を保管し、その原株に対応する預託証券を外国市場で発行します。投資家は原株を直接買わなくても、自国または利用しやすい市場を通じて対象企業へ投資できるようになります。
預託証券の仕組みを5つの段階で確認
- 発行会社が株式を発行する
米国以外の企業などが、自国で普通株式を発行します。 - 原株を現地の保管機関へ預ける
対象となる株式が、発行会社の本国にある保管銀行などで保管されます。 - 預託銀行がDRを発行する
保管された原株を裏付けとして、米国などの預託銀行が預託証券を発行します。 - 外国市場で売買される
発行されたDRは、証券取引所または店頭市場で株式と同じように取引されます。 - 配当や議決権を預託銀行が仲介する
原株から発生した配当金や株主権に関する手続きは、預託銀行を通じてDR保有者へ反映されます。
DRの保有者が直接保有しているのは、発行会社の原株そのものではなく、原株を裏付けとする預託証券です。そのため、原株の株主と経済的に近い利益を受けられる一方、権利行使の方法や時期が完全に同じとは限りません。
ADRとは?米国で発行される預託証券
ADRは、American Depositary Receiptの略で、日本語では米国預託証券または米国預託証書と呼ばれます。
米国以外の企業が発行した株式を裏付けとして、米国の預託銀行が発行し、米ドル建てで売買される証券です。NYSEやNasdaqへ上場するADRのほか、米国の店頭市場で取引されるADRもあります。
例えば、欧州、アジア、中南米などの企業がADRを発行すれば、投資家はその企業の本国市場へ直接注文を出さず、米国株式と似た操作で売買できます。
なお、金融分野で使われるADRには「裁判外紛争解決手続」という別の意味もあります。本記事で扱うADRは、American Depositary Receiptを意味します。
ADR・GDR・JDRの違い
| 名称 | 主な意味 | 主な流通市場 |
|---|---|---|
| ADR | 米国預託証券 | 米国の証券取引所や店頭市場 |
| GDR | グローバル預託証券 | 複数の国や国際的な市場 |
| JDR | 日本で流通する預託証券 | 日本の証券市場 |
| DR | 預託証券全体の総称 | 発行条件によって異なる |
ADRはDRの一種です。外国預託証券という表現は、ADRを含む外国市場で発行される預託証券を広く指す場合があります。
日本取引所グループが扱うJDRには、外国株式などを信託財産として日本で受益証券を発行する仕組みがあります。ADRやGDRが預託契約に基づいて発行されるのに対し、JDRは信託法に基づく仕組みが利用されます。
1ADRが1株とは限らない
ADRには、裏付けとなる原株との交換比率が設定されています。1ADRが原株1株を表すとは限らず、次のような場合があります。
- 1ADR=原株1株
- 1ADR=原株2株
- 1ADR=原株10株
- 1ADR=原株0.5株
- 5ADR=原株1株
この比率は一般にADRレシオと呼ばれます。原株の価格が極端に高い、または低い場合でも、米国市場で取引しやすい価格帯になるよう比率が設定されることがあります。
株式分割、株式併合、預託契約の変更などにより、ADRレシオが変更される場合もあります。保有数量や表示価格が大きく変わった場合は、発行会社や証券会社から公表されたコーポレートアクションを確認しましょう。
預託証券の価格はどのように決まる?
ADRの価格は、主に次の要素から影響を受けます。
- 発行会社の原株価格
- ADRと原株の交換比率
- 原株の通貨と米ドルの為替レート
- 米国市場における需給
- 米国市場と本国市場の取引時間の差
- 企業の業績やニュース
- 国ごとの政治・経済・規制環境
理論上は、原株価格をADRレシオと為替レートで調整した価値に近づくと考えられます。しかし、市場の取引時間、流動性、売買需要などの影響により、短期的には原株の円換算額やドル換算額と差が生じます。
「米国預託証券概況」とは?
金融情報サイトや市場ニュースで見かける「米国預託証券概況」は、米国市場で取引された日本企業などのADR価格をまとめた情報です。
日本企業のADR価格を為替レートと交換比率で円換算し、東京市場の終値と比較する情報が掲載されることもあります。ただし、ADR価格が高かったからといって、翌営業日の日本株が必ず上昇するわけではありません。
米国市場の終了後から東京市場の開始までにも為替や先物、企業ニュースが変化します。ADR概況は参考情報の1つとして確認し、将来の値動きを保証する指標として扱わないことが大切です。
預託証券は海外企業へ投資しやすくする一方、原株にはない管理費用や取引停止リスクがあります。具体的なメリットと見落としやすい注意点を次のページで確認します。


